大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成10年(ラ)569号 決定

抗告人(被告) Y

右代理人弁護士 山崎俊彦

右同 八十島保

相手方(原告) 株式会社日栄

右代表者代表取締役 A

右代理人弁護士 鍔田宜宏

主文

原決定を取り消す。

本件訴訟を旭川地方裁判所に移送する。

理由

一  本件即時抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状(写し)〈省略〉のとおりである。

二  当裁判所は、本件移送申立には理由があり、本件訴訟を旭川地方裁判所に移送すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

1  本件は、金融業者である相手方が、連帯保証人である抗告人に対し、借主であるBが負担する約束手形金五〇〇万円とこれに対する遅延損害金について、一〇〇〇万円の限度でその支払を求めるものである。

2  抗告人は、Bの保証人となったことを認めながら、本件保証契約の個々の内容を否認する。また、抗告人は、契約前後の事情、契約時の状況、契約の特殊性などからみて、本件保証契約が信義則違反ないし権利濫用に当たるから、その保証額を減額すべきであると主張する。

3  本件の審理においては、右争点についての主張、立証が必要となると考えられる。ところで、本件保証契約は相手方の旭川支店が取扱ったものであり、また、抗告人及びBはいずれも留萌市に居住している。そして、右旭川支店の担当者、B及び抗告人らは、右争点について、人証となることが予測される。本件が京都地方裁判所で審理されることは、これらの者、とくに消費者金融の顧客である抗告人らにとって、経済的にも、時間的にも、労力的にもすこぶる負担が大きい。

4  なるほど、当事者間には、手形貸付取引約定書(甲一)により、本件保証契約に関する訴訟について、京都地方裁判所を管轄裁判所とする合意がある。しかし、それ以上に、京都地方裁判所で審理をすべき公益上の理由、あるいは、当事者の利益があることを窺わせる証拠がない。右の点に関する相手方の主張もない。

5  そして、右のとおり、抗告人は留萌市に居住しており、旭川地方裁判所の管轄内に普通裁判籍がある(民訴法四条)。また、本件保証契約は相手方の旭川支店の業務に関するものであるから、本件訴訟は同旭川支店の所在地を管轄する旭川地方裁判所に提起することができる(民訴法五条五号)。

6  以上の事情を考慮して、当裁判所は、当事者間の衡平を図るため又は訴訟の著しい遅滞を避けるため必要があると認め、本件訴訟を管轄権を有する旭川地方裁判所に移送する(民訴法一七条)。

7  なお、相手方は、本件訴訟の争点からすると、証拠調べは不要であり、また、争点整理や和解は電話会議システムなどの方法により行えるから、移送の理由はないと主張する。しかし、電話会議システムなどの方法があるからといって、前認定の事情に照らし、本件のような消費者金融の合意管轄による消費者らの束縛を強化すべき理由とはならない。したがって、右主張は採用できない。

三  よって、抗告人の本件移送申立を却下した原決定は相当でないからこれを取り消し、本件訴訟を旭川地方裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 播磨俊和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例